これまでにない異色のA24作品を絶賛!『インスペクション ここで生きる』よしひろまさみち×奥浜レイラ、トークイベントレポートが到着!

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7月19日(水)

A24が新たに贈る注目作『インスペクション ここで生きる』の公開に先立ち、7月18日に東京・秋葉原にて特別試写会トークイベントを実施。ゲストとして、映画ライターのよしひろまさみちと、映画・音楽パーソナリティの奥浜レイラが登壇した。

イラク戦争が長期化する2005年・アメリカ。ゲイであることで母に捨てられ、生きるためにすがるような想いで海兵隊に志願した青年。しかし、彼を待ち受けていたのは、軍という閉鎖社会に吹き荒れる差別と憎悪の嵐だった…。海兵隊に在職中だった20代で初めてカメラを手にし、そこから映像記録担当としてキャリアを始めたエレガンス・ブラットン監督の長編デビューにして、彼の体験に基づく実話である本作。主人公であるエリス・フレンチを演じるのは、俳優、そして歌手としても活動し、2019年のトニー賞では別々のパフォーマンスで 2つの部門(演劇主演男優賞/ミュージカル助演男優賞)にノミネートされるという、史上6人目の快挙を成し遂げたジェレミー・ポープ。本作では第80回ゴールデングローブ賞で主演男優賞(映画・ドラマ部門)にノミネートされたほか、世界各国で高い評価を受けた。また、音楽は「21世紀の最重要バンド」と評されるアニマル・コレクティヴが担当。逆境に屈せず前を向く主人公フレンチの姿をエモーショナルに彩っている。


すでに本作を鑑賞済みである2人。よしひろは、「本当によくできている。第一印象は映画『フルメタルジャケット』じゃん!と思いましたけど、それ以上にLGBTQ+に属する若者たちが置かれている環境は国によって違うけど、ここまでキツイか…と考えさせられましたね。」と語った。奥浜は、「政治の状況と共に性的マイノリティの方々の人権が揺るがされて差別的なところが描写としても出てくるので、正直前半は胸が苦しくなりました。カメラと人物の近さや、クローズアップで撮っているシーンが印象的で、主人公が体験したことをそのまま体験させるような撮り方をしているんだなと途中で気付き、このまま観ていって精神は大丈夫かという気持ちにもなりました。」と続け、実話であるからこその解像度の高さを感じたことを明かした。


また、本作は映画ファンにはおなじみ、アメリカのインディペンデント系映画会社・A24が手掛けた作品。奥浜は、これまでにもA24にはアフリカンアメリカンや同性愛者が主人公の作品があったが、本作はやや“手触りが違う”という印象を受けたようだ。これにはよしひろも同意し、「A24作品でオスカーを獲った『ムーンライト』が一番近い作品になると思うんですけど、あれは本当に一人の男の子の初恋の話っていう風に焦点を絞っていた。しかし、この作品は軍を舞台にしながら、アメリカ社会全体の問題を切り取っているという意味ではかなり手触りも違う。ほぼ訓練所という場所だけしか出てこないから、まあまあ予算が少なくても成立できるけれども、ひいてはこれ社会の問題で世界観がでかいんですよね。」と本作がA24作品の中でも異彩を放つ作品となっていることを明かした。

そんなA24が新たに見出した才能が、実話である本作で長編デビューを飾ったエレガンス・ブラットン監督だ。監督が「主人公が感じる欲望、恐れ、そして最終的に抱く目標まで、すべて本物です。」と語るほど、自身の経験が忠実に描かれた本作だが、なかでも主人公・フレンチと母親のシーンの多くは特に、監督の人生体験が基になっているという。よしひろと奥浜は、親子でのシーンを振り返り、母親が敬虔なクリスチャンである点、家の中で観ていた宗教番組を息子が帰ってきても流しっぱなしにしている点などから、母は“同性愛を更生できる”と信じていたと分析する。よしひろは、「治るものではないし、病気でもない。拒絶することでしか表現ができない世代的なものもあったと思うんですよ。お母さんはおそらく戦後くらいの生まれだと思うんですけど、やっぱり価値観的には男性優位社会で、そこに属することこそ幸せ、結婚して子だくさんということこそ幸せだというタイプなんですよね。」と、時代背景を交えて解説。さらに、当時アメリカの軍に存在した、性的マイノリティが抑圧されることとなった政策などを挙げ、本作での説得力のある描写を改めて示していた。


最後に、本作のタイトル【インスペクション(inspection)】について、よしひろは「点検とか検閲とか検査とかいう意味で、わたしは“親子同士の検閲”のことなのかなという風に思ってます。主人公側は、お母さんのことをずっとどうしようってチェックしている。お母さん側も離れているけれども、この子をどうすればいいのか?という風にずっと考えている。互いに言わないまでも、検閲しあっているような。そういう複合的な構想があるタイトルだなと思ったりもしました。」と語った。奥浜も「“ここで生きる”という副題が日本語でついていて、フレンチがどう振る舞うかによって軍の中で居場所を作っていったという話でもあった。」と話すと、“辛かったら逃げてもいい”というメッセージを放つ作品が昨今多くなったことに言及。その考えとは対称的な位置にある本作に関連付けて、よしひろは「逃げた方が幸せなときは絶対逃げた方がいいと思います。でも、逃げたところで存在が消えるわけではない。育ててくれた人達との関係性はどうやっても切れないから、そことどう対峙してどうチェックしていくかっていうことがテーマなんでしょうね。」と作品から得られる人と人との向き合い方について語り、イベントを締めくくった。


8/4(金)TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開

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